埼玉西武ライオンズ不動の正捕手としてチームを牽引している炭谷選手。節目となるプロ10年目を迎えた2015年シーズンは初のベストナインや、3年ぶり2度目の三井ゴールデン・グラブ賞に輝いた。投手陣をリードするだけでなく、選手会長も務め、常にチームを引っ張り続ける炭谷選手に、守備とそのこだわりについて聞いた。
(2016年8月19日インタビュー)
—2015年度三井ゴールデン・グラブ賞(以下三井GG賞)受賞、おめでとうございます。チームの守りの要として活躍し、結果を出し続けるために、普段からどのようなことを心掛けていらっしゃいますか。
ありがとうございます。心掛けていることは「準備」ですね。これは僕なりの考え方ですが、失敗はしてもいいと思うんです。失敗は反省すれば次に活かせます。でも、後悔は何にもならない。後悔しないためには準備をするしかないんです。
—守備に関して意識していることはありますか。
捕手として盗塁阻止率にはこだわりがありますが、それよりもランナーを簡単に走らせないことの方が大切だと思っています。僕は守備に関しては負けたくないという意識が強いですし、三井GG賞も毎年受賞できるよう、目標にしています。
—パ・リーグの捕手で最も多く三井GG賞を受賞しているのは、受賞11回の伊東勤さん(現ロッテ監督)です。伊東さんは炭谷選手がプロ入りした時の西武監督でしたね。
初めて三井GG賞を受賞したときから、伊東さんの記録に少しでも近づきたい一心でプレーしてきました。「伊東選手」を追い越せるようになりたいと思っています。伊東さんには、僕がプロに入ったばかりで、なにもかもわからないときに開幕から使ってくれた恩もあります。そのおかげで、通算1000試合出場もできました。僕はプロ野球においての基礎を、伊東さんに教えていただいたと思っています。
—今まで多くの投手のボールを受けてきたなかで、すごいと思った投手はいますか?
ダルさん(=ダルビッシュ有選手、現レンジャーズ)ですね。僕が初めてオールスターに出場したときにブルペンで投球を受けましたが、衝撃でした。球種はなんでも投げられて、球も速いし、しかもコントロールがいい。僕は普段、打者として対戦するので「早くメジャーリーグに行ってくれないかな」と内心では思っていました(笑)。
—守備全体を見渡す捕手の目から見て、印象的深い守備の名手がいたら教えてください。
たくさんいますが…やっぱり菊池涼介選手(広島)かな。侍ジャパンで同じチームになりましたが、打球に対する勘がすごいですね。打球を捕りに行く一歩目や、打球の方向に回り込む力。どれをとっても素晴らしいですね。
—捕手として投手をリードするなかで、対戦する際に一番苦労する打者はいますか?
何を考えているかわからない野獣系のバッターが一番嫌です(笑)。たとえばマッチさん(=松田宣浩選手、ソフトバンク)や楽天の今江(敏晃)さん。チーム内では浅村(栄斗選手)ですね。打席で「ここに来たら打つ」とか、そういうヤマを張って待っているタイプの打者は嫌です。
—先ほど「後悔しないように」とおっしゃっていましたが、重要な場面に直面するとき、後悔しないために意識していることはあるのでしょうか。
繰り返しになりますが、やはり準備ですね。僕だったら試合前にデータや今までの結果を頭に入れておきます。もし、試合中にピンチの場面が来たら僕は「抑えよう」ではなくて、「やることはやったんだから、だめだったら仕方ない」と考えるようにしています。「抑えなきゃ」と思うと、緊張して身体が思うように動かなくなります。まあ、どんな失敗をしても、命までは取られないですから(笑)。
成功しても失敗しても、それは経験になりますし、次に活きます。「あの時はああやって失敗したから次はこうしよう」とか。プロ野球の場合は、次の日すぐ試合がありますから、頭を切り替えて準備して、しっかり次に臨むようにしています。
—炭谷選手の「野球人」としての目標を教えてください。
実は、あまり考えたことがないんです。ただ、個人的には、プロに入ったときから2000試合は出たいと思っています。もちろん、チームとしての目標は、常に優勝です。
—最後にプロ野球選手を目指す子どもたちや、それ以外にも夢に向かって取り組んでいる子どもたちにメッセージをお願いできますか。
とにかく頑張ることが大事。努力がすべてだと思います。勉強でもスポーツでも、僕は頑張れば必ず結果が出ると思います。ですから、夢に向かって頑張って努力してください。
炭谷銀仁朗
1987年7月19日生まれ。2005年の高校生ドラフト会議で西武ライオンズから1巡目指名を受け入団。強肩を持ち味に、チームを助ける獅子の不動の正捕手。2015年シーズンは5年連続の100試合出場を達成し、自身初となるベストナインにも輝いた。2016年シーズンより選手会長にも就任。投手陣の力を引き出す巧みなリードだけでなく、チーム全体を引っ張るチームリーダーとしての役割にもますます期待が高まる。
工藤薫さん
日本製鋼所 総務部
輸送グループ
目の前の炭谷選手は大きく、カッコ良かったです。緊張しましたが30年以上のライオンズファンなので、とても感動しました。「成功も失敗も経験になる」「準備を怠らない」というお話はビジネスマンにも共感できるものがありました。