三井ゴールデン・グラブ賞

大切にしているのは、試合前の“準備”。日々の積み重ねの中で一歩一歩成長していく  梅野隆太郎選手 (阪神タイガース/2020年度受賞)

2018年から3年連続で三井ゴールデン・グラブ賞を受賞、東京五輪では侍ジャパンのメンバーとして金メダル獲得に貢献するなど、今後ますますの活躍が期待される阪神タイガース・梅野隆太郎選手。今回は、第一線で活躍している梅野選手が常に意識しているという“準備の大切さ”と“夢を叶えるための秘訣”を伺った。

「キャッチャー」という特別なポジションだからこそ「当たり前を続ける」

— 先日の東京五輪では、侍ジャパンは見事に金メダルを獲得されました。本当におめでとうございます!侍ジャパンの皆さんにとっては、母国開催というプレッシャーの中での戦いだったと思います。五輪を経験してみて、ご自身の感想をお聞かせください。

東京五輪は、結果としては金メダルという最高の形となりました。しかし、その裏では、オリンピックという特殊な舞台で、選手全員がプレッシャーも含めて相当な緊張感を抱いていたと感じます。だからこそ、チーム全員が一丸となり一つひとつの試合に臨みました。その結果として、優勝を勝ち取れたのだと思います。

— 梅野選手は三井ゴールデン・グラブ賞を2018年から3年連続で受賞しています。守備を表彰する本賞について、ご自身の想いを教えてください。また、4年連続受賞に向けての意気込みはいかがでしょうか。

「キャッチャー」という特別なポジションで、こうして3年連続で受賞できているのは、本当に光栄なことだと思います。盗塁阻止率だけでなく、記録には残らないワンバンストップなどのプレーも評価していただけているのは自分としても嬉しいですし、ここまで大きな怪我もなく受賞し続けられているのは、周りの支えがあってこそです。また、キャッチャーは華やかなプレーよりも、ワンバンを止めるなど「当たり前のことを当たり前にすること」が求められます。そうした基本をしっかりこなす日々を積み重ねていくことが4年連続受賞への道だと思います。

写真:梅野隆太郎選手

— 梅野選手が「守備」に関して特にこだわっているポイントは何かありますか。また、キャッチャーとして意識していることについても教えてください。

キャッチャーは、ミスがなくて当然と思われるポジションです。活躍が数字として表れない分、難しいところはありますが、ワイルドピッチなど進塁されれば負けにつながる可能性があるミスを防ぐことも、地味ながら重要な仕事。そうした一球一球に真剣に向き合うことが、チーム全体で勝利をつかむために大切なことだと思っています。自分にできることを地道に続ける姿勢を意識して、日々プレーしています。

— 第一線で継続して活躍し、結果を出し続けるために梅野選手なりの“秘訣”があれば教えてください

いつ何が起きるかがわからないからこそ、事前の準備が大切です。そのため、日々の練習の中では常に最悪のケースを想定してプレーしています。守備はほんの少しの判断の遅れが失敗につながります。そこで、例えばボールが落ちる位置を予想する時には、さまざまな軌道を瞬時に頭の中で思い描き、それぞれのケースについて対策を考えるなど、すぐに実行に移せる心構えをしておくことが大切です。攻撃も同様で、本番の試合で1点でも多く取れるよう練習中からイメージすることを続けています。

また、身体を使う以上、どうしてもその時々で感覚のズレが生じてしまいます。打席に立つ時はその場に応じてフィーリングを変え、自分がやるべき仕事を着実にこなすことを第一に、チームの勝率を上げられるよう意識しています。チームが勝つことで自分自身の評価にもつながりますし、その分負けた時は悔しいですが勝った時の喜びはもっと大きいです。苦しいことも多いですが、勝利の喜びのために、目の前の試合を一つひとつ最後まで戦い抜くという意識で頑張っています。

失敗も経験のうち。日々の積み重ねがチームを率いる発言力につながる。

— 目標にしてきた選手や尊敬する選手がいたら教えてください。

野球を始めた小学生の頃からずっと憧れているのは、城島健司さんです。キャッチャーとしてリーグ優勝や日本一を経験し、メジャーでも活躍するなど、自らの努力で素晴らしい結果を築かれた、野球人としての姿勢に大変魅力を感じます。また、城島さんの考え方や言葉にも惹かれるものが多く、人生の先輩としてとても尊敬できる素晴らしい方です。

— 梅野選手はタイガースの正捕手としてチームを牽引し、2018年から2020年までは選手会長も務められました。チームの中心選手として、普段から意識していることはありますか。

キャッチャーとしてコミュニケーションは常に大切にしていますが、(若手選手に)アドバイスする際は最低限のものにとどめています。選手というのは失敗や成功などの実体験を通して自ら気づきを得て成長していくもの。嬉しいことも辛いことも経験して、チームを率いる力がそれぞれ自然と伴っていきます。自分もプロになって1、2年目の頃を振り返ると、当時の失敗から得た気づきが今の結果に結びついていると感じます。失敗するのも、経験を積めるチャンスだと思えば幸せなこと。何かあるたびに学びを得ながら、一歩ずつ成長していきたいです。

写真:坂井遼太郎さんと梅野隆太郎選手

— 最後に、コロナ禍でも直向きに頑張っている高校球児や、将来プロ野球選手を目指している子どもたち、野球以外にも夢に向かって頑張っている子どもたちに対してメッセージをお願いします。

高校野球ではどこの高校のチームも甲子園を目指すと思います。レギュラーの人もそうでない人も、同じ環境の中で目標に向けて真剣に練習するという高校3年間は、他ではなかなか得がたい、中身の濃い思い出になるでしょう。将来の選択を迫られる大事な時期でもありますが、目標を持って、やりたいことを思い切り楽しんでやってほしいですね。

そして子どもたちに伝えたいことは、目標に近づくために、準備を怠らずにやるべきことを積み重ねていく姿勢が大事だということです。僕自身は小学校から野球を始めて以来ずっと野球一筋で、今も子どもたちに憧れてもらえるような選手になりたいと思い続けながら頑張っています。世の中には野球選手以外にもいろんな目標や夢があり、子どもたちにはそれを叶えるチャンスがたくさんあると思います。そのチャンスを逃さないよう、準備と努力を続けていきましょう。何より楽しむことを一番に、ぜひ頑張ってください。

写真:梅野隆太郎選手

表彰式でトロフィーを受け取る梅野選手
(2019年度 第48回表彰式)

梅野隆太郎

1991年6月17日生まれ。福岡県那珂川市出身。野球をしていた父の影響で、小学校低学年から野球を始め、福岡工業大学附属城東高等学校・福岡大学を経て、2013年にドラフト4位で阪神タイガースに入団。プロ入り1年目からチーム捕手最多の92試合に出場。2018年からは3年連続で三井ゴールデン・グラブ賞を受賞。2019年には、123補殺を記録し、捕手のシーズン補殺日本記録を樹立。勝負強い打撃に加え、阪神・捕手のシーズン最多盗塁となる14盗塁を記録するなど、「走・攻・守」すべて揃った捕手として活躍している。