三井ゴールデン・グラブ賞

守ることと打つこと同じように重視。走攻守すべてで高いレベルを目指す

10年連続、三井ゴールデン・グラブ賞を見事獲得。
球界の"守備の名手"としてトップを走り続ける菊池選手に、受賞の喜びや来季への想いを聞いた。

(2022年11月29日インタビュー)

自主トレを通じ意識してきた
足を使って守る、投げること

─山本浩二さん(元広島)の10年連続受賞を目指す、との目標をついに達成。本当におめでとうございます。改めてお気持ちをお聞かせください。

素直に嬉しいです。広島の偉大な先輩である山本浩二さんの記録と並んだことを、たいへん光栄に思っています。

ホームのマツダスタジアムは、天然芝なので守備の難しさを痛感してきました。人工芝は基本的に平らな面ですが、天然芝は芝の長さが違う、湿気で濡れる、芝の下は土といった条件から、バウンドが違ってきます。ピッチャーの状態、バッターの状態、芝生の吸収、どんな打球なのかなど、すべてがマッチしないと上手くいきません。だからこそ、普段からさまざまなことに目を配り、チェックするように努めています。

─10年連続で受賞することができた秘訣は何でしょうか。

まず試合に出続けないと、受賞候補に挙がってきません。自分でも身体のメンテナンスはしていますが、何よりケガに強い身体に産んでくれた親に感謝です(笑)。僕は多少の痛みがあっても試合ができる、その許容範囲が他の選手よりも少し上なのかもしれません。それでも選手として使ってもらえるかどうかは監督の意向なので、どんな状態でも使ってくださった監督には感謝の気持ちで一杯です。信頼していただいている以上はやるしかないと、ここまできました。

─特にコロナ禍での体調管理はたいへんだったと思いますが、いかがでしたか。

コロナ禍において、外で会食することはまったくありませんでした。この3年ほどはホテルで食事する際も、選手同士で距離を取っていました。コミュニケーションも取りづらい環境でしたが、今月行われた湯布院リハビリキャンプも3年ぶりに復活し、そこで皆と会話する機会がもてました。コロナ禍で入団した3年未満の選手のなかには、このキャンプで初めて先輩と会食するという選手も大勢いて、笑い合いながら、野球の話をする機会というのは大事だなと改めて感じています。

─菊池選手が自主トレなどに取り組む際に意識していることや、メニューについて教えてください。

自主トレでは皆でサッカーを1時間ほど行い、肺機能を高め、足が十分に動くようにした上で、ノックの練習に入ります。しっかり足を使って捕りにいく、足を使って投げることを徹底的に意識しています。

シーズンになると足を使わずに投げてしまう場面もありますが、基本は足を使ってプレーすることが必要だと感じています。

─菊池選手のように三井ゴールデン・グラブ賞を目指す若手選手へのメッセージと、守備について技術面でのアドバイスをお願いします。

野球選手といっても十人十色。身体も違えば、感覚も違います。この方法が良いとは言い切れないものです。体調管理とメンテナンスをし、その中で高いパフォーマンスを出していける精神力を保つことが技術以前に求められています。試合数を重ねなければ、三井ゴールデン・グラブ賞の候補にも名前が挙がることはないので、身体とメンタルを鍛えることに力を注ぐことが最も重要だと思います。

また、技術力の向上には、練習で基本を身につけることに尽きます。基本を大事にし、その延長線として自然に応用ができるという感覚を味わってほしい。基本の練習をすることでその感覚が生まれてくるはずです。僕自身、練習で基本を大事にして応用は感覚で対応するというタイプなので、どんな時も基本を徹底してきました。

菊池涼介選手

チームへの貢献が最優先
一球でも多く全力で捕りにいく

─前回、2014年12月の本誌取材の際、正面の打球は苦手とおっしゃっていましたが、変化はありましたか。

今でも正面の打球は苦手です(笑)。僕だけではないと思いますが、まっすぐ転がってくる縦の距離感を見極めるのは難しい。少し左右にずれてくれれば、自分も動きながらボールがどういう風になるかが見えます。ただ真正面の縦の距離感は、早いのか遅いのか打球速度が掴みにくく、どうなるかわからない。芝生と土で跳ねることもあり、自分自身が固まって動けなくなることもあります。正面のボールは、今でも難しいと感じます。

─日本球界のセカンドの顔である菊池選手。菊池選手にとって、三井ゴールデン・グラブ賞とはどんな存在でしょうか。

幼い頃から三井ゴールデン・グラブ賞に憧れていました。年齢が上がるとともに守備のスペシャリストが獲る賞だとわかり、プロになった時に「一度は獲りたい」と思うようになりました。ただ狙うものではなく、チームのために一球でも多く全力でボールを捕ることが最優先で、試合数を重ねて、その結果として選んでいただける賞だと思います。

たとえ離脱したとしても120試合以上は出場してチームに貢献し、ボールを捕ってアウトにする、その先にあるご褒美が三井ゴールデン・グラブ賞ではないでしょうか。これからも目標は失策ゼロ。ただし、目標達成のために消極的なプレーはしないと決めています。

小野澤委員長よりトロフィーを受け取る菊池選手

小野澤委員長よりトロフィーを受け取る菊池選手

─この度、新井新監督が就任されました。チームリーダーとして来シーズンに懸ける想いを教えてください。

新井新監督には、現役時代も引退されてからも、お世話になっています。僕のことも良くわかってくださっているので、今までの監督とはまた違う野球の話ができるのではないかと楽しみです。

監督と選手という線引きはきちんとしつつ、監督と若手選手たちをつないでいきたいと考えています。監督の意向を若い彼らに伝えながら、チーム一丸となれるようにパイプ役に徹していきたいと思います。

菊池涼介選手と池田和さん

菊池 涼介(きくち りょうすけ)

武蔵工大二高から中京学院大を経て、2011年ドラフト2位で広島東洋カープに入団。守備力を活かし、13年から10年連続で三井ゴールデン・グラブ賞を受賞。16年にはNPB史上初となる最多安打と最多犠打をマーク。17年にはベストナインを獲得し、WBC日本代表に選出。20年にはシーズン守備率10割を達成。21年に東京オリンピックで金メダルを獲得。今シーズンはセ・リーグ史上初の100本塁打&300犠打を達成。攻守ともに日本球界を代表するプレーヤー。

聞き手

池田 和(いけだ かず)さん
王子ホールディングス
サステナビリティ推進本部 広報IR部長

憧れの菊池選手。優しい雰囲気の中、強い芯を持たれていてとても素敵でした。取材では、高い技術力に甘んじず、日々基本を大事に、努力されている姿に感動を覚えました。来年の11年連続の三井ゴールデン・グラブ賞受賞を期待しています。